また部屋にアレサ・フランクリンの幽霊が現れた。
というか、ここ数日ずっといる。。
とくに何をするでもない。今日などは、ぼくのお気に入りのソファを占領して日がな一日新聞など読みふけっている始末だ。
「・・・ねぇ、ビジネス欄に面白い記事が載ってるわよ」
「どんな記事?」
「イベント産業における集客アップの秘訣は『カニ』、ですって。日本人はとにかくカニが好きなので、手堅くイベントの集客を上げるには『カニ食べ放題!』といった企画を打ち出せば間違いナシ、だそうよ。知ってた?」
「いや、初耳だなぁ。でも言われてみれば、旅行会社とかはやたらとカニを推してくるよね。『カニ食べ歩きツアー』とか『カニ食べ放題プラン』とか、よく広告で目にするもの。まぁ、たしかに日本人はカニが好きだよ」
「ふうん。アタシも日本でコンサートやったときには『カニ食べ放題』をやるべきだったわね」
「どんなコンサートだよ」
「ヘンかしら?」
「イベントの趣旨ブレ過ぎでしょ。だいたいそんなことしなくたって十分客は集まったろう?なんたってソウルの女王のあんただぜ?」
「それがそうでもなかったのよ。同じ年にダイアナ・ロスの来日公演があったんだけど、動員はまるで彼女にかなわなかったの。くやしいったらなかったわよ」
「あらら。それは残念」
「きっとダイアナは『カニ食べ放題』をやったのよ。そうに違いないわ。いや、そうに決まった」
「決めつけなくても・・・でもダイアナ・ロスのコンサートのポスターに『カニ食べ放題!』とか書いてあったら、別種の興味はそそられるよね。それが気になって観に行っちゃうことはあるかも」
「カニエ・ウェストだって『カニ食べ放題』やってるわよ、絶対」
「カニエだけに?」
「カニエだけに」
「くだらない」
「アンタも芸名を蟹江タダシとかにすれば?そうすれば売れるんじゃない?それか新川カニ」
「テキトーなこと言いやがって」
「それかカニベース。それかキンコツマン。イワオ」
「思い浮かんだ言葉をそのまま言ってんじゃねぇ」
そんな話をしていたら、ぼくもアレサも無性にカニが食べたくなってしまったので、その後二人で「カニ道楽」へ行き、カニをたらふく食べた。
※この日記はフィクションです。