2015年5月12日火曜日

対談。安田寿之 × 新川忠(2)


C H A P T E R 2 作曲者の歌。


安田 ぼく、新川さんのアルバムは
   全部持ってますけど・・・

新川 あ、ありがとうございます。

安田 3枚とも全部好きですねぇ。

新川 ありがとうございます(笑)。
   まいったな。

安田 それぞれ違うのに、
   やっぱり共通してるものがあって・・・

新川 あー、それよく言われます。
   自分ではよくわからないんですけど。

安田 軸の強さが、すごくありますよねぇ。
   そんなにビートが強い音楽でもないし、
   こう、インパクトがグワーッてある
   みたいな曲じゃないんですけど・・・

新川 できないんですよ、それ。
   やりたいんですけど(笑)。

安田 あ、ぼくもそうですよ。
   いや、でも、
   いつもすごい人の音楽とか映画とかに
   共通して感じることがあるんですけど、
   変わり続けるけど、変わらないっていう・・・
   矛盾してるものが、こう、
   混在してる気がするんです。

新川 うーん!はいはい。

安田 表面上は3作変わってるんですけど、
   通ってる軸みたいなものは、
   ずーっと変わってないんだなっていう。
   それがやっぱり
   「強さ」という感じがしますね。

新川 いやー、そうなんですかねぇ。
   全部自分一人でやってるから
   ってのもあるかもしれないですけど。

安田 でも、最初に
   「sweet hereafter」を聴いたときから、
   なんか、自分と共通するものがあるなと・・・

新川 感じました(笑)?

安田 人の音楽とは思えない、みたいな。
   なんか不思議なんですけど、
   ちょっと、こう、似てるような気がして。

新川 音楽的には、安田さんと言えば、
   ぼくとは対照的な
   エレクトロニカや打ち込み系の
   イメージがありますけど・・・
   まぁ、今度のアルバム
   (「Nameless God's Blue」)
   みたいにオーガニックなアプローチも
   時折やられてましたけど。

安田 そうですね。
   でも、打ち込み音楽を・・・
   それこそ
   「デジタルネイティブ」じゃないけど、
   打ち込みネイティブみたいな感じで
   子供のときから聴いてるじゃないですか?
   だから打ち込みがピコピコしてる
   とかいう感覚もなくて・・・

新川 そういう感覚はないですよね、もはや。

安田 で、打ち込み音楽の中にも
   生演奏の感覚とか、
   それまでの音楽の歴史が
   積もっているわけで・・・

新川 はいはい。

安田 だから、感覚として
   最初から分けてないんですよね。
   打ち込み音楽をやっているっていう意識は、
   別に自分の中にはなくて。
   今回のアルバムは、
   すごいアコースティックになったんですけど、
   そんなにやってることが変わったという
   イメージはないんです。

新川 そういう感覚だって、もとからあった。

安田 そうですね。

新川 ピアノを弾きますよね?
   で、お上手ですよね。

安田 いや、全然全然。

新川 昔からやってらしたんですか?

安田 子供のときにちょっとだけ習って。

新川 あ、やっぱり。

安田 兄が習ってたんで、
   その影響で2年くらい習ってて。
   すごくいい先生だったんですけど、
   なんか急にやめたくなってやめて(笑)。
   ・・・小学生の男の子ですからねぇ。
   「カッコ悪い」って
   思ったのかもしれませんね。

新川 まぁ、ありがちですよね、それは。
   「男がピアノなんて」って。

安田 で、やめたんですけど、高校くらいのときに
   友達とバンドやろうってことになって。
   で、まぁ、なんとなく鍵盤できるんで。

新川 キーボード。

安田 キーボード。
   それでシンセ買って。
   ちょうどそのときに
   オール・イン・ワン・シンセとかが出て。
   それでプログラムできるように
   なったんですよね。
   で、なんとなく打ち込みに馴染みができて。
   ・・・だから、全然音大も行ってないですし、
   ピアノの2年以外は、全部独学です。

新川 そうだったんですか。
   いや、作品を聴いて、
   きっとこの人は音大にも行って、
   アカデミックな教育を受けた方なんだろうと、
   てっきり思ってたんですけど。

安田 ほんとですか?
   いやいや、全然そんなんじゃないです。

新川 シンガーソングライターみたいなものは
   目指さなかったんですか?
   ピアノを弾き語りするような。
   そこにはあんまり惹かれなかった?

安田 そうですね。
   歌が歌えたら、
   そうなってたと思うんですけど・・・
   って、歌ってますけど、今回(笑)。

新川 いや、そーなんですよ(笑)。

(※ニューアルバム「Nameless God's Blue」で、
 安田さんは自身の生の歌声を初めて披露しました)

安田 でも、もともと前に出て歌を歌ったり
   演奏したいとかいう欲求は全然なくて。
   やっぱり「作りたい」
   っていう感じだったんで。
   映画で言ったら、
   監督になりたいと思ってたんですね、ずっと。

新川 あー、わかります。

安田 まぁ、自分が歌えるなら
   歌ってもいいと思ってたんですけど、
   歌えないんで・・・
   でも、1st作るときに、
   やっぱり「歌」って、一番強いものだ
   っていうことは、わかってたんで。

新川 そうですねぇ。

安田 なんとかならないかなと思って。
   で、ヴォコーダーで歌ってみようと(笑)。

新川 そこで「ロボ声」が(笑)!

安田 (笑)でも、ヴォコーダーで
   エレクトロニックミュージックをやっても
   面白くないんで・・・
   ぼく、ブラジル音楽もずっと好きだったんで、
   ブラジルをやってみようかなと思って。

新川 それが「ROBO*BRAZILEIRA」。

安田 そうです。

新川 やっぱり、ご自分の生の歌声は、
   違和感があったんですか?そのときは。

安田 そうですね。
   よくわかるんですけど、
   リードになる声じゃないと思うんですよね。
   上手い下手じゃなくて。
   今でもそう思うんですけど。
 
新川 いや、でも、今回のアルバムを聴いて・・・
   「なんで、今まで歌わなかったのかなぁ?」
   っていうくらい、ぼくは驚いたんですけど。

安田 でも、例えば、
   それで人の曲で歌ってくれとか言われても、
   全然歌えないと思うんですけど(笑)。

新川 まぁ、リードヴォーカル向きの声じゃない
   というのはわかりますけど、でも・・・
   あの、前に大貫妙子さんが
   インタビューで仰ってたんですけど・・・

安田 はい。

新川 やっぱり「歌」っていうのは、
   上手い下手に関わらず、
   その歌を作った本人が歌うのが、
   私は一番いいと思います
   っていうようなことを言ってて。

安田 うんうん。

新川 それ、すごくよくわかるんですよ。
   だから安田さんの歌も・・・
   決してリードヴォーカル向きでは
   ないんだけど、
   やっぱり作曲者本人の歌声だっていう、
   なんか、その良さがすごくあって。

安田 あー。

新川 ま、それ以上に
   「フツーに上手いな」
   と思ったんですけど(笑)。

安田 いやいやいや。
   それはもうエディットしまくりですから。

新川 (笑)あ、エディットしまくりですか?

安田 エディットしまくりですよ(笑)。

新川 にしても、いいですよ。

安田 まぁ、(アントニオ・カルロス・)ジョビンの
   歌とか聴いてても思いますけど・・・

新川 はい。

安田 こう・・・
   天は二物を与えなかったんだなと、
   思いますよね(笑)。

新川 (笑)

安田 「ヘッタだな、ジョビン」みたいな(笑)。
   あんなにいい曲書けるのに。

新川 (笑)モサッとした声してんですよね。
   なんか「オッサン」って感じの(笑)。

安田 ただまぁ、説得力があるなと思いますけど。

新川 そうなんですよ。

安田 音楽としての完成度は・・・
   それはエリス・レジーナが歌ったほうが
   いいんですけど、
   でも、彼本人が歌ってる・・・
   一体になってる感じ。
   その説得力はあると思いますね。

新川 それはやっぱり、作った本人だから、
   知ってるわけじゃないですか、歌の心を。

安田 うんうん、そうですね。

新川 それを一番知ってる人が歌うから、
   やっぱりいいのかなって。

(つづく)