2013年5月7日火曜日

私小説。


先日、友人と酒を飲みながら「私小説」について話をした。

シンガーソングライターは、往々にして「私小説」的な歌を作るものである。
ところが、ぼくにはこれができない。
理由はいろいろあって、まず「恥ずかしいから」というのがあるし(これは私小説的な歌を批判しているのではなく、単純に「自分がそれをやるのはちょっと・・・」という、ある意味「表現者失格」なためらいがあるからだ)、歌にするのに値するテーマを、ぼくの無味乾燥な実人生から見つけることが困難であるというのもあるし。

多分、一番大きな理由は「フィクション」が好きだから、ということだと思う。
「ファンタジー」と言い換えてもいい(そっちのほうが恥ずかしいという人も多いだろうけれど)。とにかく「創作」された表現に、ぼくは惹かれる。
よくシンガーソングライターの方が、インタビューなどで「自分の歌は、全部実体験です」と言ったりすることがあるけれど、こういう発言を聞くと、ぼくは興醒めしてしまう。逆に、私小説的な歌を書いておいて「いや、ほとんどは空想ですよ」なんてあっけらかんという人には、感心して握手を求めたくなってしまう。
もちろん、どっちが良い悪いではなくて、ぼくの好みの問題だけれど。

件の友人は、例えば失恋をしたとしても、その経験をそのまま作品に落とし込むのではなく、傷ついた心のエネルギーを使って、何か「それ以上」の表現をしてみせることが、作家としては重要なのではないか、というようなことを、酔って充血した目をギョロつかせながら言っていた。ぼくもまったく同感であった。