2015年5月14日木曜日

対談。安田寿之 × 新川忠(4)


C H A P T E R 4 私小説。


安田 いつもそうなんですけど(アルバム制作は)、
   本書いてるみたいなイメージがありますね。

新川 本を書く。

安田 小説みたいな。
   なんかこう、自分が作ったんだけど、
   自分が作ってる感じはしない・・・
   みたいなとこないですか?
   なんか、誰かが作ったような・・・

新川 うーん。

安田 なんか・・・
   「俺」を出した!
   っていうんじゃなく・・・

新川 (笑)

安田 キャラクターを演じた・・・
   みたいな気がしますね、
   いっつもアルバム作ると。

新川 あー、はいはい。
   なんかわかります。

安田 自分と別の人格が作ったというか。
   アルバムは、自分とは別の人格の・・・
   子供みたいな。

新川 それはぼくもそうかもしれないです。
   さっき小説に例えられましたけど・・・
   「私小説」ではないんですよね。
   フィクションなんです。
   自分とは関係のない
   面白い物語を作ってる感じですね。

安田 そうですそうです。
   作り話なんです。

新川 シンガーソングライターだと、
   とくにフォーク系の人とかって
   「私小説」じゃないですか。

安田 はいはい、そうですね。

新川 実際に自分の経験した
   恋愛のエピソードやなんかを・・・
   「あのときの失恋を歌にしました。
    聴いてください」
   みたいな(笑)。
   歌の歌詞は全部自分の実体験だ
   っていう人とか。
   でも、ぼくはそういうの書けないんです。
   そんな歌にするほどの面白い出来事がない
   っていうのもありますし(笑)。

安田 いやー、でも、たぶん、
   それは自分だからそう思うだけで・・・
   ずーっと新川さんを観察してたら、
   面白いこといっぱいやってると
   思うんですけどね(笑)。

新川 (笑)

安田 「これは絶対歌にしたほうがいい!」
   っていうようなことが(笑)、
   いっぱいあると思うんですけど。

新川 気がついてないだけなんですかねぇ・・・
   いや、つまんない日々を送ってますよ(笑)?

安田 いやいやいや、
   そんなことはないと思いますよ(笑)。
   でも、ぼくはその、自分の体験を歌にする
   っていうことにも、ちょっと憧れがあって。

新川 あ、ほんとですか。

安田 自然にできないだけに・・・
   やっぱり、できないことに対する憧れって
   あるじゃないですか。

新川 あります。
   もう、そんなことばっかりですよ、ぼく。

安田 だから今回のアルバムでは、
   ちょっとそういうことを、
   擬似的にでもやってみたいなっていうのが
   ありましたね。
   ちょっと主観的な音楽をやりたいなと。
   こう、客観的にずっとやってきた反動も
   あると思うんですけど。
   ほんとに最初から
   私小説みたいな音楽ができる人も
   いるじゃないですか。
   でも、ぼくは10年かかって
   やっとそういうことがやりたくなって・・・
   できたのかどうかわかんないですけど、
   ちょっと今までとは違う、
   なんのコンセプトもなくて・・・
   たらっと曲作って、たらっと歌ってる
   みたいな(笑)。

新川 (笑)

安田 ものができたらいいなと思って。

新川 にしちゃあ、よくできてんですけどねぇ。

安田 「なんの作品ですか?」って訊かれたら
   「ぼくの作品です」っていうのを(笑)、
   10年経ってやっとできたかなぁ
   っていう感じですね。
   今まではパッと説明できる
   みたいな作品ばっかりだったのを、
   ちょっと、意図して変えたいな
   っていうのは、あったんですよね。

新川 あー、説明のつかないものというか。

安田 ええ。だから・・・
   「なんのアルバムですか?」って言われて
   説明できるっていうのは、
   照れ隠しもあったと思うんですよ。
   「コンセプチュアル」っていう言い方すると
   カッコいいんですけど・・・
   やっぱり照れ隠しだとは思うんですよね。
   「ミュージシャンとして作ったアルバムです」
   っていうのを1回作ってみたかった・・・
   そういう心境になったんです。
   それはやっぱり、
   震災の影響っていうのもありますし。

新川 それはもう、みんな・・・
   それぞれにあると思いますよ。
   ぼくもそうでした。

安田 やっぱりこう、
   あれだけリアルなものを見せられて・・・

新川 うんうん。

安田 なんかすごいアクション映画観てるよりも、
   ずっとすごいアクションが起きてて・・・
   それを見たら、
   なんかファンタジックなことをやる気が
   起きなくなってきて・・・

新川 そういう心境になりましたよね。
   やっぱりあのとき、多くの人が。

安田 そう、やっぱりみんな・・・
   作る側もそういう心境になりますし、
   聴く側も、ちょっと、
   そういうドリーミーなものを
   求めなくなってるような気もして。

新川 まぁ、具体的な支援が求められるっていう、
   そういう風潮になってましたし。
   その、状況の流れというのが。
   現実的なことをやらねばいけない
   というような・・・

安田 そうですね。
   まぁ、それがいいのかどうか
   わからないですけど・・・
   ちょっと、そういう心境になりましたねぇ。

新川 なりましたよねぇ。

安田 ・・・って言っても、
   4年もかかってしまったんですけど(笑)。

新川 そうですね(笑)。

安田 まぁ、その、震災の影響が何かなんて
   言葉にはできないですけど・・・
   自分なりにこう、感じたことを形にしないと
   収まりがつかないなと思ってたんで。

新川 はいはい。

安田 そういう意味では良かったですね、できて。
   まぁ、子供のことも大きかったですね、
   やっぱり。

(※安田さんは2012年に一児の父親になりました)

新川 そうでしょうねぇ。

安田 あの、生まれる瞬間を見てやろうと思って、
   見てたんですよ、ずっと。
   で、ポコッ!て言って
   生まれてくるのを見たんで(笑)。

新川 (笑)あ、出産に立ち会ったんですね。

安田 はい。ほんとにねぇ、音が・・・
   音がしたのかどうかは
   ちょっとわからないけど(笑)。

新川 (笑)ポコッ!って?

安田 ポコッ!って出てくるところをこう(笑)、
   ほんとに見たんで。
   子供ってやっぱり・・・
   それこそ世の中で最もリアルなものだと
   思いますねぇ。

新川 それはもう、人生の経験としては、
   ものすごいことですもんね。

安田 もう、ほかのことは
   すべて幻なんじゃないかな?
   って思うぐらいのリアルさを持ってますね。

新川 そうなんでしょうねぇ・・・
   いや、その感じが、
   ぼくはまだわからないですけど。
   変わりました?やっぱり。

安田 そうですねぇ。

新川 はっきり「おれ、変わったぞ」
   っていうのが、意識されました?

安田 いやいや、そういう瞬間はないんですけど、
   やっぱりそれだけリアルなものを見た
   っていうのは、その、震災の経験と・・・
   同じ方向のものですねぇ。

新川 はいはい。

安田 こんなにリアルなものがここにある
   っていうのが・・・
   信じられなかったですね、最初。

(つづく)