2015年5月21日木曜日

対談。安田寿之 × 新川忠(9)


C H A P T E R 9 CD。


新川 「Nameless God's Blue」は、
   最終的にCDという形にしましたけど、
   それはやっぱり、
   何かお考えがあったんですか?
   これはCDで出したいという・・・

安田 そうですね。
   やっぱり、その写真展を経て・・・
   あんまりニッチなことばっかり
   やってるのもどうかと。
   もう1回普通のメディアで、
   真正直にやってみようかなと。
   それは、今の状況を知りたいから
   っていうのもありましたね。

新川 実際、どれぐらいの反応があるのか・・・

安田 そうですね。
   もう、こんだけ悪いことしか
   聞かないけど・・・

新川 (笑)

安田 やってみたら意外といいんじゃないか?
   ということもあるんじゃないかと思って
   やりましたけど良くなかったですね(笑)。

新川 (笑)

安田 やっぱり、
   みんなの言う通りだなぁって(笑)。
   だからまぁ、
   今CDを作る意味っていうのは・・・
   あのー、地方のブックカフェとか、
   お客さんとお店に信頼関係がある店で
   置いてもらえるっていうのは、
   すごい意味があると思うんです。
   自分の好きな店で、
   好きな店主が好きだっていうCD置いてたら、
   そこで、ちょっと買ってみようかな?
   って思う人も、たぶん、いるとは思うんで。
   それ、(商品が)データだと・・・
   やっぱフライヤーとか置いてても・・・
   なかなかねぇ。

新川 そうですねぇ。
   ダウンロードコードの書いてある紙とか、
   それがなんなのかっていう・・・
   音楽にすぐ結びつかない。
   やっぱりCDの良さは、
   認識しやすいってことだと思うんですよね。
   「音楽の入ってるもの」っていう。

安田 そうですねぇ。

新川 やっぱり長年、
   音楽が入ってるメディアというか、
   モノとして認識され続けてきた
   っていうだけの理由じゃないですかね。
   なんだかんだ言ってもなくならないのは。

安田 そうですねぇ、うんうん。

新川 ぼくは未だにCDで聴くんですよ、音楽。
   固執してるわけじゃないんですけど。
   ・・・例えば、やや過激に、
   もうCDなんか全部やめて
   データに移行しようよ
   っていうことを言う人もいますけど、
   何もそんなに・・・
   そこまでCD悪者にしなくても
   いいじゃんって(笑)。
   別に、どれでもいいじゃないって。

安田 そうですよねぇ。
   そう、やっぱり、
   確立してるメディアだとは思うんですよね。
   アートワークと一体になってて。
   なんとなく音を聴きながらこう、
   こうやって見れるっていう・・・

新川 そうなんですよ。
   やっぱり、手に取れる感じって・・・
   これはずーっと必要なんじゃないかな
   って思って。

安田 こう、ちょうど手に取りやすい
   大きさになってると思いますし・・・
   「コンパクト」っていうだけあって(笑)。
 
新川 ・・・ただ、そのサイズ感によって、
   音楽がナメられてしまったような
   気もするんですよね。

安田 あー。

新川 レコードって、デカいじゃないですか。
   あれやっぱ、なんか偉い感じしますよ(笑)。
   ちゃんと聴かなきゃいけないようなものだ
   っていう(笑)。
   やっぱり、コンパクトディスクになってから、
   急に軽薄っていうか(笑)、
   なんだろうなぁ・・・
   ほんとに日常的に転がってるものとして、
   雑に聴かれてしまったりとか・・・

安田 うんうん、そうですねぇ。

新川 なんかこう、サイズによって
   偉くなくなっていった感が(笑)、
   あるかなぁって、音楽が。

安田 あー、はいはい。

新川 レコード時代のほうが
   偉かったような気がするんです(笑)。

安田 そうですねぇ。
   こうやって持ってましたもん、
   触らないように(笑)。

新川 そう、大切に扱わなきゃ
   いけなかったじゃないですか。
   「指紋つけるな!」みたいな(笑)。
   手入れもしなきゃいけないし。

安田 そうですね。
   CDから、なんとなくこう、
   「ピッ」て(笑)。

新川 そうそう(笑)。
   だから、こんなサイズに
   なっちゃったら・・・
   3000円っていう値段も、
   ちょっとためらうじゃないですか。

安田 あー、レコードジャケットで
   3000円だったら、なんか・・・

新川 そうですよ。

安田 それなりに見えるというか(笑)。

新川 やっぱサイズでナメられる感は
   ありますねぇ(笑)。

安田 あー、そうですねぇ。
   ・・・今ちょっと考えてるのは、
   データだけでやるとするなら、
   バージョンアップする音楽
   っていうのをやりたいなと思って。

新川 はいはい。

安田 最初は、ほんとにラフの状態で出すんですよ。
   それでいろいろフィードバックを
   もらったりして・・・
   自分でももちろん
   ブラッシュアップしていったりして、
   バージョン2みたいなの出して。

新川 うんうん。

安田 こう、双方向で
   やりとりできる環境があるのに、
   音楽って、バージョン1を・・・
   「俺のバージョン1」で
   終わりじゃないですか。
   「俺のバージョン1を聴け!」(笑)。

新川 (笑)はいはい。

安田 一方的に終わるみたいな(笑)。
   でも、ソフトウェアとか
   アプリケーションって、
   そんなにこう・・・
   まぁ、リリースできる状態にまでは
   持っていって、出して、
   で、いろいろフィードバックをもらって・・・

新川 そうですね。

安田 そういうのも音楽の出し方としては、
   いいんじゃないかなと思って。
   まぁ、一般の方から意見を聞いて、
   それを作品に反映するなんて芸術じゃない、
   みたいな考え方もあると思うんですけど・・・
   でも、ソフトウェアの開発者が
   クリエイターじゃないかっていうと、
   そんなことはないと思うんですね。

新川 そうですね。

安田 だからまぁ、
   とんでもない意見、アホみたいな意見も
   いっぱいくると思うんですけど、中には
   「あれ、こんなこと
    思いもつかなかったけど面白いな」
   っていう意見もあって、
   それを受け入れる謙虚さも
   こっちにはある(笑)。

新川 (笑)はいはい。

安田 だから、音楽を作る考え方としては、
   「今の作り方」として、
   ひとつ、あるんじゃないのかな?
   とは思いますねぇ。

新川 面白いと思いますよ。
   まぁ、アルバムでやるのは
   ちょっと大変かもしれないけど、
   曲単位だったら。

安田 そうですねぇ。
   だから、ネットで、デジタルで売る
   っていう意味は、
   そういうところにあるんじゃないかと
   思いますねぇ。
   デジタルなのにバージョン1で終わり
   っていうのが、
   考え方としてちょっとおかしい・・・

新川 いくらでも出せるんですからね。

安田 うん。だから、
   差額だけでバージョン2は
   買えるようにするとか。

新川 バージョン2を出したら、
   前のやつはもう売らないですか?
   ソフトウェアはそうじゃないですか。
   バージョンアップすると。
   最新版しか買えないようになってますよね。

安田 あ、そうですね。うーん。
   それはでも、前のも買えたほうが
   商売としては、ね(笑)。

新川 いいですよね(笑)。
   「1のほうが良かった」なんつって。

安田 うん。
   「バージョン2.54がいいらしいよ」
   って(笑)。

新川 (笑)

安田 だから、やれることは、
   まだいっぱいあるはずなんですよね。
   どうしてもこう、凝り固まって考えてるんで、
   それをとっぱらって、
   いろんな可能性を考えたいですよね。
   そうすれば、音楽は死なないと思うんで。

新川 そうですね。

(つづく)