2019年10月4日金曜日

フェイク・ダイアリー 2019.10.4


また部屋にアレサ・フランクリンの幽霊が現れた。
「忍法・リチャード・クレイダーマン」とは何か?と訊かれたので、そんなものは知らない、なんのことだか見当もつかないと答えると、「たよりにならないのねぇ」などと言われてしまう。

「たよりにならないのねぇ」
「そんなことでたよりにされても困るよ。だいたいなんだよ?『忍法・リチャード・クレイダーマン』って。どこで聞いたの?」
「どこで聞いたかって?どこでだって聞きゃしないわよ。だってアタシの頭の中になんとなく思い浮かんだ言葉だもん。ウフフ」
「・・・ねぇ、どうしてぼくがそんな言葉を知ってるっていうんだい?まして意味なんてわかるはずないじゃないか」
「ダメねぇ。想像力を使いなさいよ。どんなムチャぶりにも、とにかくすぐ答えてみせるのが一流の芸人というものよ。そんなことだからアンタはいつまで経っても二流なのよ」
「ぼく芸人じゃないんだけどな・・・わかったよ、そこまで言うならなんとか答えてやるよ、もう」
「そう来なくっちゃ」
「うーん・・・まず、何かリチャード・クレイダーマンっぽいことが起きるんだろうね。そういう忍法だ。それは間違いない」
「まぁ、そうでしょうね」
「たとえば・・・呪文を唱えると『渚のアデリーヌ』のピアノがどこからともなく聞こえてくるとか」
「いいじゃない。続けて」
「で、あたりは一瞬にして80年代の喫茶店と化す」
「・・・ごめんなさい、そこちょっとよくわからないわ」
「とにかく、まったりした雰囲気になるんだよ。それで敵の戦意を喪失させるって寸法さ。みんな戦うのをやめて、くつろぎたくなっちゃうわけ。で、実際くつろぎ始めちゃうの」
「なんとか持ち直したわ」
「で、その間に逃げる」
「あ、逃げるのね」
「うん、くつろいでる敵をやっつけるのも忍びないからね。忍びなだけに」
「いちおう、うまいと言うべきかしら」
「というわけで、これが『忍法・リチャード・クレイダーマン』。どう?」
「なるほどね。でも、それだったら『忍法・リチャード・クレイダーマン』なんて遠回しな名前を付ける必要ないと思わない?要はまったりした雰囲気を作り出す忍法でしょ?」
「ああ、そうか。『忍法・80年代の喫茶店』のほうが順当なネーミングだね」
「『80年代の』って、いる?『忍法・喫茶店』で良くない?」
「うーん」
「そこがちょっと弱いわねぇ」

たしかに、そこはちょっと弱い。


※この日記はフィクションです。