2013年9月3日火曜日

狼の群れ。


「アップルストア」に行ってみた。どんなもんかな、と思って。初めて。
これが、恐ろしい場所であった。
ものの20秒で退店。ほとんど逃げるようにして出てきてしまった。

ぼくは、洋服屋や電気店で「店員に話しかけられる」のが、とにかく苦手である。
こちらから声をかけるまでは客をそっとしといてくれる店、ひとりゆっくりと商品を見て回れる店が理想的なのだけれど、そんなぼくの理想を「日本」とするならば、アップルストアは、まさにブラジルやアルゼンチンに位置する店であった。

まず、入り口の自動ドアが開いた途端、ブルーのユニフォームを着た若く美しい女性スタッフ2名が、いきなり「いらっしゃいませ。よろしければご案内いたします」ときた。思わず、のけぞる。
これまさに、試合開始と同時の不意打ちの先制攻撃の如し(しかも2人がかり!)。
もう、すぐに回れ右して店を出たくなったけれど、それはあまりに感じ悪いので(自分で言うのもなんだけど、ぼくはこれでけっこう紳士である)、「いえ、どうぞお気遣いなく」という意味を込めた軽い会釈でさりげなく2人をやり過ごし、仕方なく店内に一歩進んでみる。
すると、どうだ。
店にいる人間の半分はブルーのユニフォームのスタッフたち!しかもほぼ全員が客の相手をしている!ひとりでのんびり商品を見て回っている客などいない!
大変なところに来てしまった、と思った。すでに何名か「手の空いている」スタッフがこちらに視線を向けている。万事休す!メーデー!メーデー!
これまさに、狼の群れに迷い込んでしまった羊の如し。
とにかく立ち止まってはダメだ。立ち止まって商品を眺めたり、あたりをキョロキョロしたりした途端、きゃつらの牙の餌食となることは確実。
慌てている感じを出さず、それでいて、店員に話しかける隙を与えぬ絶妙なスピード感で店内をぐるりと一周(商品にはほとんど目もくれず)。
もう大丈夫だ。あとは「探しているものは見つからなかった」という体で店を出るのみ・・・と、そこへ女性スタッフがひとり、笑顔でこちらに近づいてきた!
ぬぬぬ、このオレに最後の戦いを挑もうというのか。良かろう。受けて立つ!
必殺「腕時計を見て、あっもうこんな時間だ、の表情を作って早足」の技を見舞う。
見事、敵はセールストークの言葉を飲み込み、一言「ありがとうございました」。

戦いは終わった。もう二度とこの店に来ることはあるまい。
店を出て、他人に干渉しない無関心で冷たい人間の行き交う「東京」の街の空気を思いきり吸い込み、大いに安堵した次第である。