2016年12月16日金曜日

やっかいな傑作。


はっと気がついたら、もう年末・・・。本日はスターウォーズ・ファン待望の「ローグ・ワン」公開初日。予告編の解禁日に「年末の公開かぁ、まだまだ先だなぁ」なーんて思ってたのが、今となってはひと月前のことのようです。
新川です。どうも。

というわけで「ローグ・ワン」さっそく観て来たよ~という話をすると見せかけて。こないだ、たまたまDVDで観た全然関係ない映画の話です(笑)。「ローグ・ワン」はこれから観に行きます。それについてはまた後日。

TSUTAYAでなんとなーく手に取った一本だったんですが、「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」(公開は2014年)という映画。
地球人の美女に化けたエイリアンが地球の男どもを妖艶な魅力で誘っては食べてしまうというあらすじで、主演はスカーレット・ヨハンソン。件のエイリアンを演じるスカヨハは、映画の中で惜しげもないフルヌードを披露しています(そのことはしっかりパッケージにも書いてあります)。

ぼくのようにこの映画のことを今まで知らなかったという方は、ここまで読んだところで「そりゃまたド直球のB級映画みたいだけど?」という感想を持たれたんではないでしょうか(笑)。いや、ぼくもそう思ったんです。ビール片手に気楽に楽しめるSFホラーでも、と思って借りたんですよ。「こいつは間違いない」と(笑)。
ところが、観始めてびっくり。「2001年宇宙の旅」への(マジメな)オマージュで幕を開けた本作、一切の説明を排した「出来事」を、シュールなイメージを交えつつ詩的に綴った、完全なる「アート」映画だったんです(あとで調べてみたら「カイエ・デュ・シネマ」の2014年のトップ10第3位を記録してました)。
しかしこの期待の裏切りは、オールオッケーでした。意外な驚きの興奮を味わえましたし、何よりアート映画特有の空気感、映像の持つ詩情が、幸運にもぼくの好みにぴったりだったんです。結果、観終えた感想は、大傑作!パチパチパチ~!ということでめでたしです。

ただ、この映画、ご覧になった方はみなさん気になったんじゃないかと思うんですけど、「種の捕食」という邦題のサブタイトル(「スピーシーズ 種の起源」のモロパクリ)や、DVDのパッケージ(公開当時はポスターや予告編)で、「SFホラー」「エイリアン侵略モノ」であることがサラッと示されていますが、作品を観るとフツーに重大なネタバレなんですよ(笑)。そういう話であることが「ハッキリと」わかる描写は、クライマックスまで出てこないんです。さっきあらすじを書いちゃいましたけど、本当は伏せとかなきゃいけない(笑)。
しかしながら、この手の「よくある」B級映画的娯楽性の高い題材を、詩的な映像のアート映画として表現してみせたことがこの作品の大きな魅力になっているわけですから、まさにぼくが味わったような意外性を楽しめるという点では、「宣伝でネタバレ」もオッケーだったと思います。
このことについては(素人の想像ですけど)映画の宣伝チームのひとたちも、けっこう悩まれたんじゃないですかねぇ・・・だって、もしぼくがこの映画の宣伝をまかされたら、いったいどんなお客さんにどうアピールしたらいいのか途方にくれちゃいますよ。お色気アリのB級娯楽映画ファン?それとも「カイエ・デュ・シネマ」を読むようなアート映画ファン?正解は、おそらくその「中間」にいるひとたちなんです。「どっちも好き」っていうね。ターゲット狭っ!っていうか、それって「ジャンル問わず面白ければヨシ」っていう映画ファンのことじゃない?じゃあ、もう全方位ターゲットじゃん!かくなる上は、とりあえず「スカヨハが脱ぐ!」の一点張りで押すしかない(笑)。
作品の出来は素晴らしい、しかし、その魅力を上手くひとに伝える術がない、これがどうにも、もどかしい・・・そんな「やっかいな傑作」(笑)の一本だと思います。

本作の監督は、ジョナサン・グレイザーという、主にミュージック・ビデオのシーンで活躍してきたイギリスの映像作家らしいですね。長編映画はこれがまだ3作目ということで、さっそく後日、前作の「記憶の棘」(2004年)という作品も観てみたんですが、これがやっぱりやっかいな傑作でした(笑)。
ぼくが映画プロデューサーなら、この監督にはこう言うでしょう。「なぁ、ジョン、君の腕は確かだが、もう少し観客にわかりやすいアプローチをしてもいいんじゃないかな?それがヒットのカギなんだ。わかるだろ?」
当然、この言葉がそのままぼく自身に返ってくることは棚に上げて、です。

それではまた。