突然、部屋にナマハゲが乱入してきた。
驚いて腰を抜かしていると、ナマハゲが「アタシよ、アタシ」と言う。
例のごとく、その正体はアレサ・フランクリンの幽霊であった(もう、いいかげんにしてほしい)。
「だいぶ驚かせちゃったみたいね」
「だいぶ驚いたよ、びっくりしたぁ・・・何やってんだよ?いったい」
「見てのとおり、ナマハゲのコスプレよ」
「その理由を訊いておるのだ」
「そりゃあ、もうじきクリスマスだからに決まってるじゃないの。泣ぐ子はいねがぁ~」
「・・・もう帰ってもらっていいですか?」
「わかったわよ、ちゃんと説明するわよ。ナマハゲとクリスマスとどういう関係があるんだって言いたいんでしょう?」
「なんの関係もないだろう?」
「それが大アリよ。あんまり知られてない話だけど、クリスマスのルーツは、実はナマハゲのお祭りなの」
「まさか」
「もちろん日本のナマハゲじゃないわよ。よく似たお祭りが、昔ヨーロッパにもあったの。バケモノに扮した村人が家をまわって子供たちを驚かせるっていうヘンテコなお祭りがね」
「へぇ、それはたしかにナマハゲだね」
「でしょ?そのお祭りがいつしか、キリスト教の聖人に扮した村人が家をまわって子供たちに贈り物をするっていう内容にすり替わっていったの。これがクリスマスの始まり。その『キリスト教の聖人』が誰だかは知ってるわね?」
「ああ、聖(セント)ニコラスだろう?それが訛ってのちにサンタ・クロースになったんだ」
「そのとおり」
「待って。ということは、クリスマスはもともとキリスト教とは関係ないお祭りから始まったってことだよね。じゃあキリストの誕生祝いというのは・・・」
「残念ながら、まったくのでっち上げよ。イエス様が12月25日に生まれたなんて記録はどこにも存在しないの。例のお祭りをやるのがたまたまその時期だったから、それに合わせて誰かがこじつけてしまったの」
「つまり、異教の祭りが次第にキリスト教に吸収されていったってことだね?」
「そういうことね」
「知らなかったな」
「だからこの話の面白いところでもありこわいところはね、でっち上げやこじつけも何百年も経てば立派な伝統になったり『事実』にされてしまうってことなのよ」
「まぁ、歴史ってそういうものだよね」
「アタシも300年後には、ラッパーだったなんてことにされてんじゃないかしら」
「そうかもしれない。クイーン・ラティファと混同されちゃってね」
「よしてよ」
「ぼくも300年後には有名な作曲家だったことになってるかもしれないな」
「その前にアンタの名前なんて歴史のどこにも残らないから大丈夫よ」
「うるさいな。いいから早くそのナマハゲのお面をとれよ」
しかしアレサはナマハゲのコスプレがいたく気に入ってるらしく、その格好のまましばらくぼくの部屋で勝手に『アナと雪の女王』のDVDを観たりなどしていた。
※この日記はフィクションです(が、クリスマスのルーツに関する記述は実在する学説を引用しています)。