アルバム『Street Illusion』をリリースしてから、はや1年が経ちました。
新川です。どうも。
先日久しぶりに聴き返してみたんですが・・・我ながらよくここまでがんばったなと思いました。
まぁ、今となっては反省点もあちこち見受けられましたけど、それでもお金も技術も気の利いた機材もない状況で、良い作品を作ろうと精一杯のことをやった感じが伝わってきました。「伝わってきました」って、作ったのぼくですけど(笑)。
ともあれ、アルバムを聴き返してるうちに制作中の記憶がアレコレよみがえってきたので、今回は改めて『Street Illusion』の全曲解説をしてみようと思います。少し長くなるけど、よろしくお付き合いください。ついでにデザイナー・木原淳くんが撮ってくれた、リリース時のアー写の別バージョンも公開しちゃいます。
参考リンク:
> アルバム『Street Illusion』の紹介(2021年1月8日付のブログ)
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01. 1973
アルバムのイントロダクションとして作った短いインストナンバー。タイトルの数字は「ヒップホップ」が誕生した年にちなんでいます。
この「1973」をはじめ、このアルバムのトラック(オケ)は全て、往年のヒップホップ・サウンドへのオマージュとして、サンプリングの手法で制作しました。とはいえ「元ネタ」は、ほとんど自分で楽器を弾いたり打ち込んだりして作ったもの(それ以外は、よくある著作権フリーの音声素材)なので、それらの音源に、あたかも既存のアナログレコードからサンプリングしたかのような音質加工を施しています。この手法を、ぼくは「フェイク・サンプリング」と呼んでいます(笑)。
02. Peaceful Day
アルバムのリリースに先がけてSoundCloudで公開した曲です。その際この曲の解説はすでにしたので、ここでは補足説明を少しだけ。
バックで鳴ってる「シャンシャンシャン♪」という鈴の音は、クリスマス・シーズンになると必ず耳にする「スレイベル(ジングルベル)」の音をわざとローファイにしたもので、これは90年代前半に流行ったヒップホップ・サウンドのひとつなんです(ちなみにスレイベルを使ったヒップホップ・ナンバーでぼくが好きなのは、ナズの「Halftime」)。
03. Still Life
「Still Life」とは「静物画」のことですが、「静止した人生」とも訳せますよね。昔とまったく変わらない旧友に再会した男の複雑な心情を描いた歌です。
「旧友」は売れない女性シンガー。再会の場所は、そんな彼女が弾き語りのライブをやっているライブハウス。語り手の男は、かつて旧友と一緒に夢を追いかけたりもしたけれど、今はもう「大人」になって、年相応に落ち着いた暮らしをしている・・・そんな設定で書きました。
04. Street Illusion
ぼくにとって「ストリート(street)」という言葉は・・・大好きな音楽や文化が生まれた場所。様々な人々や、その人生が交錯する物語の舞台。そんなイメージです。
しかし実際に「ストリート」で生きてきたアーティストたちは、しばしばその過酷な現実(貧困や犯罪や暴力)を描写します。ぼくには決して描けない世界です。
結局ぼくの中の「ストリート」は、あくまで都合のいい憧れであり、ロマンティックな幻想(illusion)に過ぎないんですよね。でも「それの何が悪い」と(笑)半ば開き直りつつ、その気持ちをそのまま歌にしたのがこの曲であり、このアルバムというわけです。
05. Evening People
密かに思いを寄せる相手との、学校や職場からの帰り道。別れ際、「今日こそこの思いを伝えよう」と思いながら、いつも言い出せないままサヨナラをしてしまう・・・という、ムズムズするほど甘酸っぱい出来事を書いた歌ですが(笑)、これはぼく、20代のころだったら、恥ずかしくて書けなかったし歌えなかったと思います。でも年をとると恥ずかしくなくなるものなんですね。そんな過ぎ去った青春の一幕が、今はただただ愛おしいです。
06. Simply Look
アルバムのインタールードとして作った短いインストナンバー。楽曲を構成する音のパーツが、それぞれに途中で消えたりまた出てきたりする、90’sヒップホップ・サウンド独特の「間」の美学を意識して作りました。
このアルバムを作るにあたって、ぼくが最も影響を受けたヒップホップのトラックメイカーはピート・ロック(90年代のヒップホップ・シーンを牽引したプロデューサー/アーティストのひとり)で、ピートの「間」の作り方はかなり研究して参考にしました。
07. Weekend Daydream
異質なもの同士をミックスすることでフレッシュなフィーリングを生み出す、というヒップホップの「思想」に基づいて作った曲です。
80年代後半のハードコア・ラップをイメージして作ったビートに、ウワモノのネタは「オシャレ系」のフュージョン。で、歌の歌詞はヌーヴェルヴァーグのフランス映画のような世界。と、もうなんでもアリという感じで(笑)ミックスしました。
08. Pray
このアルバムを一本の映画と見立てたとき、どうしても「雨のシーン」が欲しくて作ったのがこの曲。
道行く人々に神への祈りを促す宣教師。予定のない休日を怠惰に過ごす男。「不思議の国」に迷い込んでしまったアリス。偶像の天使たち。そして降り注ぐ通り雨・・・そんな街角のスケッチを描いた歌です。
09. 2 C the Light
タイトルは「to see the light(その光を見るために)」というフレーズの綴り遊びです(プリンスがよくやってたやつ)。
90年代後半、のちのインスタ・ブームより以前にガーリーフォト・ブームというのがあって、街角ではカメラを手にした若い女の子をよく見かけたものでした。でも当時はまだSNSのない時代。「いいね」やフォロワーやインスタ映えなんて概念に惑わされることなく、彼女たちは純粋に自分が良いと思う写真を、自分のために撮ってたわけです。そんな「カメラ女子」たちのことを思い出しながら書いた曲。
10. Fairy Tale
アルバムのラストナンバー(当初の曲順では中盤に入る予定でした)。この曲の歌詞は、前作『Paintings of Lights』(2015)に収録した「霧の中の城」の「後日談」として発想しました。
「霧の中の城」は、遠い昔に異国の地で出会った「君」の幻影を求めて、再びかの地を旅する男の歌だったんですが、男はそれからどうなったんだろう?というところから詞のアイデアを膨らませていきました。
それで思いついたのが・・・結局、男は「君」との再会を果たせないまま、旅から帰ってくるんですね。で、住み慣れた都会の日常生活に戻っていく。やがて忙しく仕事に追われたりなんかしてるうちに「君」のことも旅のことも忘れかけたある日。なんと街角でバッタリ「君」と再会するという、やたら都合のいい話(笑)。
まぁ、おとぎ話によくあるパターンですよね。ずっと探し求めていたものが、身近な場所で見つかるという。それでタイトルは、そのまま「Fairy Tale(おとぎ話)」にしました。
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当初『Street Illusion』は、自分なりのヒップホップ・アルバムにしたいと考えていたんです。
でも途中から、あまりそのことにはこだわらなくなっていきました。ヒップホップとかR&Bというジャンル性はあくまで味付けであって、最終的には「新川忠の音楽」というところに着地させようとしてましたから。
でも「異質なもの同士をミックスすることでフレッシュなフィーリングを生み出す」のが「ヒップホップ」だと言うのなら、ヒップホップとぼくの歌をミックスしたこの音楽は、やはり非常に「ヒップホップ」なのかもしれません(笑)。ややこしいですけどね。改めて聴き返してみて、ちょっとそんなことを思いました。図らずも目的は達成されていたんじゃないか?なんて。
それではまた。